- 登場人物は『3人以内』
- 1ツイート内で台詞とト書きを執筆し相手に渡す
- 1ツイートの制限時間は『5分程度』
- 相手への返信の形で続きを執筆する
- 末尾に『#交換戯曲』と入れる
- 合計『20ツイート』で終了
- 作:尾崎太祐(ロボット劇作家)、高瀬和彦(ババロワーズ)、にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)、初瀬川幸次郎
- 執筆日:2021年6月19日
- タイトル:あなたはだんだん眠くなる(サカイリユリカ様より提供)
- 場所:防波堤(加納遥陽様より提供)
- 時間:真夜中(白井宏美様より提供)
遠くにタンカーの小さな光。
防波堤にあたる静かな波の音。
「私」はふらふらとよくここに来ては、ふらふらとここで過ごす。
たまに暗闇に浮かび上がる釣り人にびっくりする。
で、動揺がバレないように、また気の向くまま、ふらふらと歩いている。
そして今夜もここにいる。
いつもなら、今日は様子が違う。
波は少し騒がしく、月の光は妖しく光っていた。
波打ち際に、誰かが立っている。たまに見かける釣り人じゃない。
少女だ。月の光に照らされる表情が幻想的だが、どこか暗かった。
私「あの……大丈夫ですか?」
少女「……あなたはだんだん眠くなる」
私「……は?」
少女「だんだん眠くなる……眠くなる……」
私「ああ、眠い……そうですよね、時間も時間ですしね……すみません突然話しかけて」
少女は、うつむいて頭を掻きむしり始めた。
少女「……おかしいな」
私「何が?」
少女「……あなたが」
私「僕が?」
少女「普通はね、これやるとすぐ寝ちゃうんですよ」
私「へえ。寝かしてどうするんですかね」
少女「財布盗んだりかなあ」
私「可愛い顔して凄い事を。わたしはここによく来るんですけど、たまに変な人来るんですよね」
少女「そうなんだ。それでどうするんですか」
私「殺すんです……」
少女「へー」
私「……恐くないの?」
少女「それが、望みだったりして」
私「え……」
少女「だんだん眠くなる、眠くなる。はは、効かないか」
私「こんな時間にここにいちゃだめだよ」
少女「はい、帰ります」
少女、どこかに歩き始める。
私「ねえ、本当に効くの、その呪文」
少女、立ち止まり振り返る。
少女「いつもならちゃんと効くんですけどね。今夜は光が足りないかもなあ」
私「月の光?」
少女「月の満ち欠けの関係か、潮の満ち引きのせいなのか。それとも……あなたが特別なのかも」
私「まさか」
少女「ねえ。もうひとつ、試してみてもいいですか?」
私「いいけど…………よく知らないこんな僕とまだ喋っててもいいの?」
少女「私の目をようく見て」
私「え?」
少女「ようく見て。絶対目を逸らさないで」
私「見てるよ、しかし物好きだよね君は……」
少女、言葉を遮るように突然自分の唇で男の唇をふさぐ。
私「何するんだ!」
私、少女を往復ビンタする。
少女「何すんの。少女の接吻なのに!」
私「僕のファーストキスを……」
少女「ええマジで」
私「僕のファーストキスはあの人に捧げると決めてたのに」
少女「だ、誰ですかそれ」
私「ずっと、ずっと、ずっと、そのこと思って、やりきれなくて、やりきれなくて、あー、もう、あー! あー! ずっと、ずっと、ずっと……」
少女、大きく深呼吸。
私「(嗚咽している)」
少女「深呼吸して、」
私「……」
少女「早く、効果が切れる。台無しにしないで!」
私、深呼吸。
私「その瞬間。頭の中に、波が押し寄せてきた」
私、咄嗟に目を閉じる。
少女「どう? 何が聞こえる? どんな匂い?」
私「潮の香りと魚の大群。眩しすぎるよ。夜のはずなのに」
少女「波が去ったら、目を開いて」
しばらくして私、目を開ける。
私「……テトラ、ポッド?」
少女「うん、それで?」
私「打ち上げられてる。テトラポッドに。苦しい。海水もいっぱい飲んでるみたい。体も冷え切って動かない」
少女「その調子。もっと思い出して」
私「海で溺れて流れ着いたんだ。どうして俺、海に来てたんだろう……彼女だ。彼女と海水浴に……」
浜辺に一人立っている彼女。
彼女「彼はあの日、海に消えたんです。初めて一緒に行った海。なんなんでしょうね。初めての彼が海に消えた気持ち分かりますか。彼がテトラポッドで発見された時、横に少女がいました。なんか綺麗な子でしたね。彼女の横顔が印象的でした」
彼女、どこかに向かって話を始める。
彼女「噂を聞いたの。男が真夜中によく歩いてるって。ここに来たら……、いるんでしょ?」
少女が現れる。
彼女「やっぱり」
少女「……」
彼女「あの時、なぜあなたが?」
少女「どうして私が分かるの?」
彼女「さあ……、あなたはいる」
少女「知らない」
彼女「それよりも私の質問に答えてよ。あなたはなんなの」
私「俺は……」
少女「……」
彼女「彼をどこに連れて行ったのよ、早く……」
少女「……知らない」
彼女「とぼけないでよ。あの日あなたが、彼と!」
私「おい、なんの話だよ。それに君たちは」
彼女「とにかく彼の居場所を教えて」
少女「ここに居るじゃない」
彼女「どこに?」
少女「ここよ!ほらあなたからもなんか言いなさいよ」
私「二人とも大きな声を出すなって」
少女「だって彼女が急に詰めてくるから」
彼女「……あんたさっきから誰と喋ってるの?」
少女「……え?」
彼女「そのテトラポッドの裏に誰かいるの?」
少女「裏?」
彼女「誰に話し掛けてるのよ」
少女「誰って、そこに腰掛けてるでしょ」
彼女「誰が?」
私「だから揉めるなって」
私、彼女に触れようとするも感触が無い。
私「あれ」
少女、また私にキスをする。
少女「もう一回、」
私「え、」
彼女「いるの?彼がそこに」
私「いる、僕はいる」
少女「触って、彼女を触って」
私、彼女の頬を触る。
彼女「え、温かい」
少女「彼女が眠くなるまで、それがタイムリミット」
少女「探していたんでしょう」
私「いるよ、僕はいる」
彼女「あなたがいる、あなたが……」
私「そうか、きみは……僕はあの日君に言うはずだったことを」
彼女「夢、じゃ、ないんだよね……?」
彼女の声が、少女の声が遠のいていく。
静寂。次の瞬間、轟音とともに波が押し寄せてくる。
私「やっと思い出した。君に言いたかったこと」
彼女「そこに居るのね」
少女「素直に、素直に受け止めて」
私「僕と……真剣に付き合ってもらえませんか?」
再び激しい波の音。
彼女、呆然と固まったようになり、やがて涙を一筋流す。
その瞬間、男の姿が忽然と消える。
遠くにタンカーの小さな光。
防波堤にあたる静かな波の音。
「彼女」はふらふらとよくここに来ては、ふらふらとここで過ごす。
たまに暗闇に浮かび上がる釣り人にびっくりする。
で、動揺がバレないように、また気の向くまま、ふらふらと歩いている。
そして今夜もここにいる。
幕