- 登場人物は『3人以内』
- 1ツイート内で台詞とト書きを執筆し相手に渡す
- 1ツイートの制限時間は『5分程度』
- 相手への返信の形で続きを執筆する
- 末尾に『#交換戯曲』と入れる
- 合計『20ツイート』で終了
- 作:岩井利和(劇団ひとみしり)、増田優太、道岡真優子(口噛ウイスキー)、初瀬川幸次郎
- 執筆日:2021年9月21日
- タイトル:虹の端っこを見てみたい(ミヤコワスレ様より提供)
- 場所:オアシス21水の宇宙船(麓 貴志様より提供)
- 時間:深夜1時(M's Junction様より提供)
崖のはじっこに女が立っている。
少し離れた所から男が見ている。
男「な、何してるんですか」
女「何ってあなたに関係ないでしょ」
男「そんな所、危ないでしょ」
女「ここなら虹が」
男「虹?」
ポケットからスマートフォンを取り出す男。
男「虹ってこれ?」
女「それ」
男「へえ、すご、これ何色もあるんだよね、きっと。こう、カラフルな感じにさ」
女「何それ」
男「ここから見えるんならぜひ見せて欲しいね」
おもむろに近づき始める男。
女「え、何?」
近づく男を制するように声を発する女。
女「何当たり前みたいに近づいてきてんの? キモいんだけど」
男「あ…ごめん。そういう流れだと思ってつい」
女「私、虹をカラフルって表現する男が一番嫌いなの」
女が崖の向こうに向き直る。
男「だから危ないって」
女「やっぱ見づらいわぁ」
男「いやいやいや」
女、いい加減鬱陶しい。
女「なんだお前。どういう気分だよ」
男「落ちたら。危ない。よくない」
女「日本語死んだのか」
男「モラル考えろよ。ここから飛び降りられてみろ。河○市長に迷惑だろうが」
女、不服。
女「あのね、死んだら市長がどうとか関係無いでしょ」
男「もしかして、死んだら何も無いと思ってるタイプ?」
女「何も無いでしょ」
男「死んでからが本番ですよ」
女「本番て何よ」
男「あなた人生何周目ですか?」
女「……困った。本物の変人なのね」
男「変人かどうかは話を聞いてから決めてくださいよ」
女「あなたなんの用があるわけ。そろそろいい加減にしてよ」
男「僕の質問にも答えてください」
女「人生何周目って? 一周目よ、はい終わり。帰って」
男、スマートフォンを再び取り出す。
男「とりあえず、連絡先でも交換しませんか」
女、怪訝そうな顔をする。
男「だって虹が出るまで、あと何時間あると思ってるんですか」
女「大きなお世話よ」
男「人生を何週しても、虹がこの時間に出ることはなかった。きっとこれからもずっとそうでしょう」
女「……だから?」
沈黙。
女「あー、いいや。ごめん。はい! おわり。虹はよく見えません!」
女、ずんずん進む。
男「おいおいおい」
女「サームデーイオーバーザレインボー♪(うろ覚え)」
男「待て!」
女「ジュディー○ーランドによろしく言っとくね」
女、飛ぼうとする瞬間、水の音がする。
妖精「どーん」
水の中から妖精が現れる。
女、驚いて動きが止まる。
女「何。何あんた」
妖精「何って。あんた達こそこんな時間に何してんの」
女「いや虹を」
妖精「2時? 今はもう3時ですよ」
女「時間じゃなくて」
男「誰だあんた」
妖精「オアシスの妖精ですが何か」
男「妖精? すごい」
女「妖精なわけないじゃない。オアシスなんて名前だけなんだから。虫かなんかでしょ。水辺の」
妖精「失礼な。妖精ですよ」
男「妖精なら魔法とか」
妖精「もちろん」
ステッキのようなものを取り出す。
妖精「一夜に一度だけ魔法をかけてあげられます」
妖精、ステッキを大きく振りかぶる。
男「ち、ちょっと!」
妖精「え?」
女「……魔法って何?」
妖精「魔法は魔法。一夜に一度。お二人が、心底望んでいることを一つ」
男と女、顔を見合わせる。
男「そんな、同じとは限らないでしょう」
妖精「え、同じですよ」
女「何で……」
女、不服。
妖精「終末思想は被りがちです」
女「……そうですか」
女、ヘリに立ち手を広げる。
女「なら、叶えてよ。さあ!」
妖精「わかりました。オアシスから溢れる水よ、雨よ、空よ、彼らの望みを」
妖精、雨を降らせる。どしゃ降り。
世界を覆うほどの雨の始まり。
男「あ、分かった!」
妖精「何が」
男「名古屋に長雨が多いのはお前は原因か!」
男、妖精に殴りかかる。
女「や、やめなさいな」
男「お前、願い叶えるって言われて雨降られた俺の気持ちが分かるか!」
女「それはわたしも同じでしょ」
男「なら二人で殴ろう」
女「よし分かった!」
男と女、共に拳を振り上げる。
男「ちょっと待って」
女「ええい、止めるな」
男「違う、ほんとに!」
男、女の手首を掴んで止める。
男「俺叶えたい願いができたんだけど、協力してもらえない?」
女「は」
男「その後、落ちればいいんじゃない?」
妖精「名古屋に長雨が多いのは別に私のせいじゃないんですけど」
ぼやく妖精をよそに、女への説得を続ける男。
男「だからさ、少しだけ僕の話を聞いてよ」
女「そんなこと言ったって、魔法は一晩に一つなんでしょ。もう叶わないじゃない」
男「それがさ、そんな事ないんだって」
男、肩をつかむ。
男「雨の先に、幸せはあるかもしれない。虹の端は、」
女「虹の端なんてないんだってば!」
女、突き飛ばす。
女「ばかにしてんの?ずっと、雨が降ったのもさ、人類滅べって思った私のせいでしょ?」
沈黙。
男「僕は待っています。今」
雀の声がする。朝が近い。
妖精「そろそろ雨が上がりますよ」
少しづつ雨が少なくなってくる。
男「ほら、きっと。もう少しだ」
ヘリに登る男。
女「駄目。やっぱり虹なんて見えないじゃない。こんな崖っぷちで願った所で」
男「そんなことない。あれを見てごらん」
男が指差すと同時に足を滑らせる。
女が咄嗟に男の手をとる。
男「ごめん!」
女「いや、無理、もたないよこれ」
妖精「一晩一つ、二人揃って願い事が条件ですよ」
女「どれ?どれ叶えればいいの?」
男「決まってるでしょ」
ズルズルと女の足が滑り始める。
女「ここが、オアシス」
男「そう、またここがいい」
ギリギリを保ちながら耐える二人を、瞬きもせず見つめる妖精。
男「連絡先、交換、してないね」
女「は、今言う!?そんなの、」
男「カラフルでも、いい?」
妖精「一晩一つ、二人揃いましたね」
妖精、ステッキを大きく振りかぶる。
二人落ちる。
妖精 「虹の端はどこにある?それは何処にもないのかも。それでも明日は来る」
刹那、虹がかかる。時は戻る。
妖精「夜は..永い」
夜。女、見えない虹に手を伸ばす。
男「な、何してるんですか。そんな所、危ないでしょ」
女「……ここなら虹が」
男「虹?」
おしまい。